2009年05月24日

サイバーエージェントにおける新規事業撤退の判断基準

「ブルーレット」や「サラサーティ」、「熱さまシート」などの定番トイレタリー・ドラッグ商品で知られる小林製薬は、年間30もの新商品を開発する。この事実を捉える時、多数の商品を生み出す開発力に目が行きがちだが、その一方で半数以上の商品を撤退させていることを忘れてはならない。ここでは撤退は日常茶飯事であり、新商品開発のプロセスにおいて「的確、且つ迅速な撤退」というフェーズが占める存在感は小さくない。

しかし、実際には、1度立ち上がってしまった事業は関係者の思惑や利害関係を孕み、撤退の判断は容易ではないものだ。事前に準備できることと言えば、立ち上げに先んじて撤退の判断基準を決めておき、撤退の判断の難易度を引き下げること位だ。

余談になってしまうが、事前に撤退の判断基準を決めておくことには、さまざまなメリットがある。例えば、立ち上げに携わる者に危機感を持たせる為にこれ以上に有効な手段はないだろう。また、あるケースでは、当該事業の立ち上げを渋る社内の重要人物からの了承を取り付けるために、有効な手段かもしれない。筆者にとって至近な例では、オーナー経営者の鶴の一声的な取り組みとして走り出した新規事業の暴走を食い止める政治的な打ち手として、位置づけられることもあった。話を元に戻す。

サイバーエージェントでは、事業毎に撤退判断基準を持たせるという状況から1歩前に進み、トレーダーが複数の取引を共通の損切りのルールで運用を行うのと同様に、複数の新規事業を共通の損切り(撤退判断)のルールにより運用を行っている。

まず最初のハードルは事業立ち上げから6ヵ月後に訪れる。6ヵ月後の粗利益が月間500万円を越えており、且つ累積の赤字が3000万円未満でなければならない。社内ではサッカーのJリーグになぞらえ、このプロセスを「J3 → J2」と呼んでいるようだ。「J2 → J1」は立ち上げから1年半後で、この時に粗利益が月間1500万円を越え、累積の赤字が6000万円未満でなければならない。1年半以内でJ1に到達できなければ、撤退しなければならない。*1

大型の先行投資が必要な新規事業(例えば、ニコニコ動画のような)の立ち上げには厳しいルールのようにも思えるが、サイバーエージェントはこの仕組みの導入後も「プーペガール」「アメーバピグ」「CAテクノロジー」などの新規事業を成功させている。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
撤退判断の基準は明確になっているだろうか?また、複数の新規事業の立ち上げを並行しているのであれば、事業間で共通する撤退判断基準を設けることは出来ないだろうか?

http://www.cyberagent.co.jp/

*1 参考にした資料が古かったようで、現在ではJ1からJ5までにステージが細分化されているようだ。
posted by 新規事業立ち上げマン at 15:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業立ち上げ手法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月20日

ECナビの新規事業「ECナビコンシェルジュ」

価格比較サイト「ECナビ」などで知られるECナビ社が新規事業を立ち上げている。「ECナビコンシェルジュ 」という名の買い物代行サービスだ。

サービスの概要はヤマト運輸の新規事業「ネコレ(03年)」などと同じのようだ。恐らく地方在住者や買い物に行く時間がない兼業主婦をターゲットで、彼らが雑誌で欲しいアイテムを見つけると、ウェブから雑誌名や掲載ページ、アイテム名などを入力させて、ECナビコンシェルジュが店頭での買い物を代行、利用者に向け発送、代行手数料を受け取るというモデル。

このサービスがターゲットとするアイテム(=ファッション誌に掲載されるような人気商品)は、商品の絶対数がそもそも少なく、且つ購入するタイミングが重要で、従ってマーケットのサイズは大きくないのだが、「ネコレ」に「マガシーク(03年)」位しかプレーヤーが居らず、且つ両社とも着実に成長しており、そういう意味で堅実にヒットが狙える参入と言えるだろう。在庫も倉庫も持たずに済み、買い物を代行するにあたり特別な資格やトレーニングが必要なわけでなく、アルバイトを中心に運用コストを低く抑えることが出来る。

ネコレとマガシークがそれぞれ親会社であるヤマト運輸、伊藤忠商事を有利に使えるのに対して、ECナビは価格比較サイトを通して消費者との接点が既にあるという強みを活かして対抗していく。マガシークは売上が85億円、売上総利益23億あるにも関わらず、経常利益4億6千万となっている。販売管理費がプロモーションコストに割かれているものだとしたら、ECナビは価格戦略でマガシークのユーザーをリプレイス出来る。

ECナビという企業は、最初は懸賞サイトとして、次いで価格比較サイトとして、後発で事業参入し、事業を成功させてきた。懸賞サイトも価格比較サイトも、そして今回の買い物代行サービスも、検索サービスや動画サイトのような派手さはないが、堅実な事業モデルであり、新規事業への投資判断もどのような基準で行われているのか非常に興味深いところだ。

次回エントリではECナビ(をはじめとするサイバーエージェントグループ)の新規事業立ち上げの仕組みについて触れてみたい。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
先行者の成長が順調で、且つパイが占有されていない市場を探し出して、そこに参入する、という視点で新規事業を考えられないだろうか。

http://concierge.ecnavi.jp/
posted by 新規事業立ち上げマン at 23:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月19日

本家メタバース「Second Life」の現在

「ブームが過ぎ、急速な過疎化が進行している」という文脈で語られることが多い、メタバースの御本家「Second Life」だが、ITMediaの取材に拠れば、日本人のアクティブユーザーは増え続けており、現在4万5000人程度。ブーム当時の2、3倍に拡大、ここ最近は右肩上がりに伸び続けているという。

特に主婦などの女性ユーザーが増えており、高価なアバターアイテムを購入して、着せ替えを楽しんでいるとのこと。携帯電話向けのSNSやブログ、或いは一部のネットゲームなどと同様の状況と言える。

アクセスするユーザーの数は月間100万。世界で最もプレイ人口が多いとされるMMORPGの「World Of Warcraft」で1150万人と発表されていることを鑑みれば、100万人という数字は決して過疎と揶揄されるようなものではない。アプリケーションインストール型のサービスであることを考慮すれば、むしろ、大人気のオンラインサービスと言ってしまって差し支えないであろう。

またマネタイズ面でも、Second Life内で流通する通貨が08年には3億6000万ドル(約360億円)と、World Of Warcraftは40ドルの最新アップデートを1ヶ月で400万本(=160億円)販売したことと比較しても遜色がない(そもそもWorld Of Warcraftと比較することが適当であるかどうかはさておき)

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
Second Lifeというサービスを考えるときに「英語」の存在は大きい。英語でサービスされたからこそ、全世界にファンを作ることが出来、ロケーションに左右されずにサービスを利用できるという、オンラインサービスの特性を最大限に引き出せている。「英語」でサービスすることで、日本のみならず、世界中からユーザーを集めることが出来ないだろうか?

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0905/18/news037.html
ラベル:メタバース IT
posted by 新規事業立ち上げマン at 02:43| Comment(0) | TrackBack(1) | 新規事業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする