2009年06月03日

ヤマト運輸の新規事業「ネコレ」がリニューアル

先日取り上げたECナビの新規事業「ECナビコンシェルジュ」の競合、買い物代行サービス「ネコレ」がリニューアルしている。どのように変わったかを整理するために2パターンの業務フローにおこしてみた(内情を知っているわけではないので、全くの推測で書いている)。

【リニューアル前の業務フロー】
1. 利用者からの注文をネコレシステムで受け付ける
2. ネコレ担当者Aがネコレシステムで注文を確認
3. ネコレ担当者Aが店舗担当者に電話で在庫確認、在庫有りなら確保
4. ネコレ担当者Aが利用者に在庫状況連絡、購入意志の確認
5. ネコレ担当者Bが店頭で商品を購入
6. ネコレ担当者Aが商品の発送をヤマト運輸に依頼
7. ヤマト運輸がネコレ担当者から商品を受け取り、配達

【リニューアル後の業務フロー パターン1】
1. 利用者からの注文をネコレシステムで受け付ける
2. 店舗担当者がネコレシステムで注文を確認
3. 店舗担当者が在庫確認、在庫有りなら確保
4. システムが利用者に在庫状況連絡、購入意志を確認
5. 店舗担当者がネコレシステムで購入意志を確認
6. 店舗担当者が商品の発送をヤマト運輸に依頼
7. ヤマト運輸が店舗担当者から商品を受け取り、配達

【リニューアル後の業務フロー パターン2】
1. 利用者からの注文をネコレシステムで受け付ける
2. ネコレシステムが店舗側システムと連携
 在庫を確認、在庫有りなら確保
3. ネコレシステムが利用者に在庫状況連絡、購入意志を確認
4. ネコレシステムが店舗側システムと連携
 商品の発送をヤマト運輸に依頼
5. ヤマト運輸が店舗担当者から商品を受け取り、配達

パターン1は、システムを持たない小さなセレクトショップとの連携を想定している。店舗側にとって、注文管理・決済、配達の1通りのサービスを実装しており、且つ、全く初期投資コストをかけずにPCや携帯電話からの注文に対応できるようになるというネコレシステムのメリットは大きい。
パターン2は高度にシステム化されたアパレルブランドとの連携を想定している。店舗側でも最初、インタフェースの開発にコストが発生するが、組み上げてしまえば、それからはほとんど人手を介さず、注文に対応できる。注文受付から在庫の確認が取れるまでに発生している最長3日間のリードタイムをなくして、顧客がリアルタイムに在庫を確認できるようにもなるだろう。

リニューアル後も在庫確認最長3日間のルールが残るところを見るに、現在はまだパターン1への移行段階であり、パターン2への移行はまだまだ先になると考えて良さそうだ。

どちらのパターンにせよ、リニューアル後の業務フローからは、ネコレ担当者A(センター業務担当者、社員)とB(購入代行業務担当者、アルバイト)が消える。これまでネコレが人手・マニュアルで運用してきた部分をシステム化した。これにより「人件費コストの削減」「発送までの時間短縮」などのメリットが考えられるが、現にリニューアルに対応した店舗・ブランドについては、手数料が一律1050円となる。これまで手数料は、最低3800円だったことを考えれば、半額以上の低価格化だ。対応ブランドはまだ数えるほどだが、これが増えてくれば、競合に対して大きな差別化要素になるだろう。

このネコレも、昨年末にヤマト運輸が立ち上げた新会社ヤマトマルチメンテナンスソリューションズも、ヤマト運輸という企業は「消費者のニーズ」と「業界の課題」のようなところを正確に汲み取って、的確なソリューションを作り上げてくるなという印象を受ける。

日頃、どのような企業がどのような消費者に対してどのような商品を送っているかを送っているかを観察できる、マーケティング的に有利なポジションにあり、さらには物流業という事業の特異性(新規事業を始めた際に、シナジーが発生する領域が相対的に広い)を活かした結果と見ることも出来るが、日本通運や佐川急便などの競合と較べたときにも圧倒的に際立っている。次エントリではこのヤマト運輸を新規事業開発の仕組みについて触れたい。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
サプライヤーのためのシステムや仕組みを整備することが顧客のためになる、そんな逆転の発想でサービスレベルを引き上げられないだろうか?

http://www.nekore.com/
ラベル:ヤマト運輸 IT
posted by 新規事業立ち上げマン at 03:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月30日

その新規事業はスケールメリットを追求できるか?

成功したベンチャーとして取り上げられることが多い、下記の新規事業には共通項が2つある。

・カットのみで、セットや洗髪をしない、10分1000円の理髪店「QBHouse」
・手や足のみと部位を指定できる、10分1000円のマッサージ店「てもみん」

1つは、これまで事業既存事業者が、きめ細かに提供してきたサービスをバッサリと切り捨て、コアサービスに集中、価格を半額未満に抑えたという点だ。サービス業における顧客への「きめ細やか」な対応は、必須であるかのように思いがちだから、こういった逆転の発想があることは胸に留めておきたい。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
「きめ細やか」なサービスをあきらめて、コアサービスに集中、価格を抑えることで、既存事業者と差別化できないだろうか?

もう1つの共通項が、どちらも顧客1人に対して、従業員1人が対応する労働集約型産業であり、実はスケールメリットが働かないという点だ。商品を大量生産することで原価率が下がり、販売管理費効率は上がり、結果として利益率が向上するというスケールメリットが現れてこない。

「QBHouse」も「てもみん」もスケールメリットを追求すべく、フランチャイズ制を導入、利用者からサービスの代価を受け取るビジネスモデルから、フランチャイズ加盟店のオーナーに店舗経営の仕組みを提供、代価としてロイヤリティを受け取る形にビジネスモデルを変換している。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
その新規事業はスケールメリットを追求できるビジネスモデルか、チェックしてみよう。

QBHouseは座った人数や順番をセンサーで把握する椅子、吸引により毛髪を取り除くウォッシャーなど特殊な設備面で語られることも多いが、一般の理髪店や美容院の椅子や洗髪台も充分、特殊なものだ。例えば、QBHouseなどのFC制度を利用して起業する理容師が多いなら、そういった理容師をターゲットとして、専用の椅子や洗髪台を提供する事業を展開することでスケールメリットを追求できよう。
posted by 新規事業立ち上げマン at 15:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業チェックリスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年05月28日

リクルートがリクルートで有り続ける仕組み

くらたまなぶ氏が入社したのが、今からちょうど30年程前だが、当時はまだ4つだった事業が、現在、雑誌だけで23誌までに拡大している(くらた氏は14誌の創刊に携わったという)。全ては挙げないが、「フロムエー」「とらばーゆ」「エイビーロード」「じゃらん」「ゼクシィ」と、ざっと聞いても、知らない名前はないだろう。23誌が、それぞれの業界でトップランナーとして走り続けている。

さらに現在では、雑誌だけでなく、本ブログでも触れた「TownMarket」や、バナー制作のクラウドソーシング「C-team」や携帯電話向けコミュニケーションツール「ハモニナ」など、領域を広げて、積極的に新規事業を展開。社内から新規事業のアイデアを募る「New RING」というコンテストには、毎年700の応募がある(ここからゼクシィ、R25、ダ・ヴィンチなども生まれている)*1

また、リクルートを「代謝(=退社)」して起業、大成功したのが、有線ブロードネットワークス社長の宇野康秀氏、ゴールドクレスト社長の安川秀俊氏、セプテーニ社の七村守氏、リンクアンドモチベーション社長の小笹芳央氏、マクロミル社の杉本哲哉氏など。起業せずに、Docomoのiモードを仕掛けたとも言われる松永真里氏のように、大企業内で新規事業に関わっている人材も少なくない。

来年で創業50年になる企業が、何故こうも存在感を保つことができるのか(例えば、再生法適用したダイエーは1957年創業で、リクルートと3歳しか違わない)。それは、社員の平均年齢31歳という数字を実現する、退社を促す仕組みの存在が大きいだろう。

退社時に勤続10年以上30歳以上という条件を満たしていると1000万円が支給される「オプト制度」や40歳以上であればいつでも自由に定年退職できる「フレックス定年制」という2つの仕組みがある。これにより、単に組織が若く保たれているだけでなく、その多くが「退社後、1000万円を元手に起業する」「起業を成功させる力を身につける」という明確な目標を持って働いている。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
起業や新規事業の立ち上げを成功させる為に自分が獲得しなくてはならない力は何だろう、という明確な問題意識を持って日々の業務にあたりたい。

http://www.recruit.jp/

*1 サイバーエージェントの社内コンテスト「じぎょつく」では毎年40の応募があると言う。これはリクルートの700という数字に較べて見劣りがするかもしれないが、リクルート社員8000名、サイバーエージェント700名というスケールの差を考慮すれば、社員の参加率という点ではそう差はないのだ。
ラベル:リクルート
posted by 新規事業立ち上げマン at 02:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業立ち上げ手法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする