2009年06月13日

ヤマト運輸の新規事業立ち上げの仕組み

ヤマト運輸のグループ内での新規事業創出の制度「Y-Venture Dream」は設立が2002年。それ以前にも「スキー宅急便」「時間帯お届けサービス」など社員によるアイデア発の新規事業はあったが、宅急便を前提として、そこから派生するような新規事業に限定されていた。それが、この「Y-Venture Dream」以降は宅急便に囚われずに、柔軟に新規事業開発に取り組む契機となっている。

ヤマト運輸グループの社員から新規事業のアイデアが応募されるのだが、その際の条件として、1)事業開始後3年以内に単年度黒字化が見込める事業である、2)応募者自ら経営する意欲があり、リーダーとしての資質を持っていること、が問われる。

立ち上げ「3年以内の単年度黒字化」は社内ベンチャーや新規事業への投資判断を行う際によくある一般的な基準だろうが、後者の「リーダーとしての資質」については、あまり見ない基準だ。まずは事業コンセプトありきで、実行者の能力(モチベーションはともかく)については不問とする組織が多い。

応募者は、社内専門家による助言や協力の場を経て、1次審査「本部長プレゼン」、そして2次審査「役員プレゼン」と進む。2次審査で応募案が採用されると、予算1000万円でフィージビリティスタディを行う。立ち上げ3年後までは、毎年5月に事業継続審査が行われる。

「Y-Venture Dream」による新規事業の第1号としてコールセンター業務をアウトソーシング受託する「ヤマトコンタクトサービス」、第2号が先日も紹介した買い物代行事業の「ネコレ」がある。

「ヤマト運輸の新規事業への取り組みは、「Y-Venture Dream」の枠の外でも非常に活発で、「メンテナンスサポートサービス」や「ネットスーパーサポートサービス」など、時代の流れを読みながら、自社の強みを活かす形でビジネスとして形に作り上げていくさまは、例えばリクルートと較べても遜色がない。何故か?

ヤマトホールディングス瀬戸社長は日経ビジネスのインタビューで、新しいビジネスを成功させるための重要なポイントは何かという質問に対してこう答えている「ソリューションの種は常に現場にある。それをキチンと形にするためには、宅急便のセールスドライバーが顧客と対話するなかで新たな課題を見つけ出して、それを踏まえて専門のスタッフが最適な提案をしていくことが重要です」

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
その新規事業には、顧客と対話して顧客の声や不満を抽出する、そんなコンタクトポイントがあるだろうか?ヤマト運輸は、運転手をセールスドライバーと位置づけることで、顧客からの生の声を収集、新規事業開発で一歩先を行き、競合優位を保ち続けている。

http://www.kuronekoyamato.co.jp/
ラベル:ヤマト運輸
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2009年05月28日

リクルートがリクルートで有り続ける仕組み

くらたまなぶ氏が入社したのが、今からちょうど30年程前だが、当時はまだ4つだった事業が、現在、雑誌だけで23誌までに拡大している(くらた氏は14誌の創刊に携わったという)。全ては挙げないが、「フロムエー」「とらばーゆ」「エイビーロード」「じゃらん」「ゼクシィ」と、ざっと聞いても、知らない名前はないだろう。23誌が、それぞれの業界でトップランナーとして走り続けている。

さらに現在では、雑誌だけでなく、本ブログでも触れた「TownMarket」や、バナー制作のクラウドソーシング「C-team」や携帯電話向けコミュニケーションツール「ハモニナ」など、領域を広げて、積極的に新規事業を展開。社内から新規事業のアイデアを募る「New RING」というコンテストには、毎年700の応募がある(ここからゼクシィ、R25、ダ・ヴィンチなども生まれている)*1

また、リクルートを「代謝(=退社)」して起業、大成功したのが、有線ブロードネットワークス社長の宇野康秀氏、ゴールドクレスト社長の安川秀俊氏、セプテーニ社の七村守氏、リンクアンドモチベーション社長の小笹芳央氏、マクロミル社の杉本哲哉氏など。起業せずに、Docomoのiモードを仕掛けたとも言われる松永真里氏のように、大企業内で新規事業に関わっている人材も少なくない。

来年で創業50年になる企業が、何故こうも存在感を保つことができるのか(例えば、再生法適用したダイエーは1957年創業で、リクルートと3歳しか違わない)。それは、社員の平均年齢31歳という数字を実現する、退社を促す仕組みの存在が大きいだろう。

退社時に勤続10年以上30歳以上という条件を満たしていると1000万円が支給される「オプト制度」や40歳以上であればいつでも自由に定年退職できる「フレックス定年制」という2つの仕組みがある。これにより、単に組織が若く保たれているだけでなく、その多くが「退社後、1000万円を元手に起業する」「起業を成功させる力を身につける」という明確な目標を持って働いている。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
起業や新規事業の立ち上げを成功させる為に自分が獲得しなくてはならない力は何だろう、という明確な問題意識を持って日々の業務にあたりたい。

http://www.recruit.jp/

*1 サイバーエージェントの社内コンテスト「じぎょつく」では毎年40の応募があると言う。これはリクルートの700という数字に較べて見劣りがするかもしれないが、リクルート社員8000名、サイバーエージェント700名というスケールの差を考慮すれば、社員の参加率という点ではそう差はないのだ。
ラベル:リクルート
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2009年05月24日

サイバーエージェントにおける新規事業撤退の判断基準

「ブルーレット」や「サラサーティ」、「熱さまシート」などの定番トイレタリー・ドラッグ商品で知られる小林製薬は、年間30もの新商品を開発する。この事実を捉える時、多数の商品を生み出す開発力に目が行きがちだが、その一方で半数以上の商品を撤退させていることを忘れてはならない。ここでは撤退は日常茶飯事であり、新商品開発のプロセスにおいて「的確、且つ迅速な撤退」というフェーズが占める存在感は小さくない。

しかし、実際には、1度立ち上がってしまった事業は関係者の思惑や利害関係を孕み、撤退の判断は容易ではないものだ。事前に準備できることと言えば、立ち上げに先んじて撤退の判断基準を決めておき、撤退の判断の難易度を引き下げること位だ。

余談になってしまうが、事前に撤退の判断基準を決めておくことには、さまざまなメリットがある。例えば、立ち上げに携わる者に危機感を持たせる為にこれ以上に有効な手段はないだろう。また、あるケースでは、当該事業の立ち上げを渋る社内の重要人物からの了承を取り付けるために、有効な手段かもしれない。筆者にとって至近な例では、オーナー経営者の鶴の一声的な取り組みとして走り出した新規事業の暴走を食い止める政治的な打ち手として、位置づけられることもあった。話を元に戻す。

サイバーエージェントでは、事業毎に撤退判断基準を持たせるという状況から1歩前に進み、トレーダーが複数の取引を共通の損切りのルールで運用を行うのと同様に、複数の新規事業を共通の損切り(撤退判断)のルールにより運用を行っている。

まず最初のハードルは事業立ち上げから6ヵ月後に訪れる。6ヵ月後の粗利益が月間500万円を越えており、且つ累積の赤字が3000万円未満でなければならない。社内ではサッカーのJリーグになぞらえ、このプロセスを「J3 → J2」と呼んでいるようだ。「J2 → J1」は立ち上げから1年半後で、この時に粗利益が月間1500万円を越え、累積の赤字が6000万円未満でなければならない。1年半以内でJ1に到達できなければ、撤退しなければならない。*1

大型の先行投資が必要な新規事業(例えば、ニコニコ動画のような)の立ち上げには厳しいルールのようにも思えるが、サイバーエージェントはこの仕組みの導入後も「プーペガール」「アメーバピグ」「CAテクノロジー」などの新規事業を成功させている。

■ 新規事業立ち上げに際して考えてみたい
撤退判断の基準は明確になっているだろうか?また、複数の新規事業の立ち上げを並行しているのであれば、事業間で共通する撤退判断基準を設けることは出来ないだろうか?

http://www.cyberagent.co.jp/

*1 参考にした資料が古かったようで、現在ではJ1からJ5までにステージが細分化されているようだ。
posted by 新規事業立ち上げマン at 15:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 新規事業立ち上げ手法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする